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1−12 サーシャの気遣い、そして旅立ち

last update Last Updated: 2025-08-25 18:52:01

――その日の夜

「何ですって!? お母さんに小切手を取られてしまったの!?」

部屋にサーシャの驚く声が響き渡る。

「お、お願い。あまり大きな声を出さないで。叔母様に聞かれてしまうわ」

ジェニファーはオロオロしながらサーシャに声をかける。

「別に聞かれたっていいわよ! 事実なんだから。自分の親ながらイヤになるわ。はっきり言って犯罪よ! かと言って、取り返すのは難しいわね……本当にごめんなさい。ジェニファー」

「え? 何故あなたが謝るの?」

「だって……いつもいつもお母さんはジェニファーに酷いことばかりしているし……」

「いいのよ、サーシャは何も悪くないもの」

けれど、小切手を取られてしまってはニコラスの元に行くことが出来ない。

ジェニファーがサーシャの為にコツコツ貯めた貯金を全額投じても旅費には満たない。かと言ってニコラスに手紙でお金のことを告げることは出来なかった。

あの手紙の文面では、とてもではないが金銭の相談は無理だった。

思わずため息をつくと、サーシャがそっとジェニファーの両手を包みこんできた。

「大丈夫よ、ジェニファーにも貯金があるのでしょう? 実は私もお金を貯めていたのよ。2人のお金を足せば、旅費を工面できるはずよ」

「え? そんなこと駄目よ!」

その言葉にジェニファーは驚いて首を振る。

「いいのよ。ジェニファーが貯金してくれていたのは知っていたわ。でもそれは私達のためでしょう?」

「そ、そう……よ」

「私もね、ジェニファーのためにお金を貯めていたのよ。だからこれを使って」

サーシャはポケットに手をいれると、麻袋を手渡してきた

「これは……?」

「私が貯めたお金、金貨5枚入ってるわ」

「ええ!? 金貨5枚!」

驚いて、ジェニファーは中身を確認すると確かに金貨が5枚入っている。

「私が貯めた全財産、こんなこともあろうかと思って今日銀行から引き出してきたのよ」

「だ、だけど……こんな大金……」

「いいのよ。だって私達、ジェニファーのお陰で今があるのよ? あんな母親だけだったら、今頃どうなっていたか分からないわ。このお金を使って、旅費の足しにして?」

サーシャは笑顔を向ける。

「サーシャ……あ、ありがとう」

「実はね、これだけじゃないのよ」

サーシャは立ち上がると、自分のロッカーの扉を開けて洋服を取り出した。

濃紺のボレロに丈の長いスカートはとても上品なデザイ
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